232 研究領域の現状
田 中 彰 治(助教) (1989 年 4 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:非ベンゼン系芳香族化学、分子スケールエレクトロニクス
A -2) 研究課題:
a) 大型分子内における単一荷電キャリアーの外的制御原理の探索 b) 各種基板表面における鎖状大型分子の合目的分子配列に関する研究
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 当研究室では,巨大分子内に多種多様な光・電子機能ブロックを非周期的,合目的に定序配列化するための逐次精 密合成法の開拓により,「単一巨大分子内単電子/正孔素子回路」の実現を目指している。今年度は,「位置選択 的接合サイト」と「HUB 機能ユニット(これを基点として数ステップ以内に20種以上の機能ユニットに変換可能)」 を付与した汎用鎖状構築ブロックのサイズを,従来の 10 nm 級から 40 nm 級にまで拡張した。これにより,分子鎖 長を 1–80 nm の範囲で 1 nm 刻みで指定することが可能となり,微細加工で“ 再現性良く構築可能” なサイズ(20 –30 nm 以上)の平坦化ナノギャップ電極(単一分子の実空間観測用)に完全対応となった。共同研究として(阪大・ 多田G),アンカーポイント及び絶縁被覆付きチオフェンオリゴマー(5, 8, 11, 14, 17, 20 量体)の単一分子伝導度計 測を,S T M - ブレイクジャンクション法により実施し,従来研究(1–2 nm)よりも格段に広い範囲(1–8 nm)にお ける伝導度−鎖長依存性を明らかにした。さらに,低エネルギーギャップユニットの導入により,単一分子伝導度 を桁違いに向上可能なことも実験的に明らかにした。京大・松重/山田Gには,平坦化ナノギャップ電極上におけ る大型分子の電場配向技術の開拓用に,10 nm 超級の分子を各種供給している。また,汎用構築ブロックを他の合 成研究グループに輸出することも始めた。愛媛大・宇野Gでは,量子井戸の候補であるポルフィリン系分子との接 合に成功し,含ポルフィリン分子電線の伝導度計測の系統的研究が可能となった。京大・田中Gでは,発光性分子 との接合が進行中である。
b) 本項目は,横浜市大・横山Gとの共同研究に基づく。上記の汎用構築ブロックは,嵩高いブロック状置換基と長鎖 アルキル基を合せ持つため,S T M による実空間観測に基づく分子鎖内配座異性体や鏡像異性体の識別が,在来分 子系よりも容易である。今年度は,パルスジェット法で 10 nm 級分子を清浄金属基板上に設置,超高真空下の高分 解能 S T M 観測により基板上の孤立分子を多数観測して,その分子内配向を統計的に解析・検討した。結果,比較 的簡単なモデル分子の配座解析計算結果を基に大型分子の分子内配座を予想できる可能性が判明した。これを実 験的に確証するため,立体障害により特徴的な分子内配座を有する 10 nm 級分子を新たに作製した。その比較検 討実験が進行中である。
B -4) 招待講演
田中彰治 , 「単一分子内トンネル接合系の逐次構築」, 高分子エレクトロニクス研究会「分子素子研究の新展開」, 東京 , 2007年 1月.
研究領域の現状 233 B -7) 学会および社会的活動
学会の組織委員
分子研分子物質開発研究センター・特別シンポジウム「分子スケールエレクトロニクスにおける新規分子物質開発」主催者 (1998).
応用物理学会・日本化学会合同シンポジウム「21世紀の分子エレクトロニクス研究の展望と課題—分子設計・合成・ デバイスからコンピュータへ—」日本化学会側準備・運営担当 (2000).
第12回日本MRS学術シンポジウム:セッション H「単一電子デバイス・マテリアルの開発最前線〜分子系・ナノ固体系 の単一電子デバイス〜」共同チェア (2000).
F irst International C onference on Molecular E lectronics and Bioelectronics 組織委員 (2001).
B -10)外部獲得資金
基盤研究 (C )(2), 「高度の電子輸送能を有するナノスケール単一分子電線の創出」, 田中彰治 (1998年 –1999年 ).
基盤研究 ( C ) (2) , 「シリコンナノテクノロジーとの融合を目指した機能集積型巨大パイ共役分子の開発」, 田中彰治 (2000 年 – 2001年 ).
基盤研究 (C )(2), 「単一分子内多重トンネル接合系の精密構築法の開拓」, 田中彰治 (2007年 –2008年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
π 共役鎖中の単一荷電担体のサイズは 2–3 nmと見積もられている。そのサイズよりも十分大きな共役系を有し,かつ系内ポ テンシャルの凸凹を合目的に制御した分子を精密構築して,その単一分子骨格内の単一荷電担体の動きを直接観測・制御し てみたいというのが基本的な願いである。その際の最初の関門が,「研究しようとする性質が最も純粋に発現すると予想され る分子群」を作ることである(これを無視して基礎研究はありえない!)。分子が大型化するにつれ可能な化学プロセスの数も 激増し,よって余計な過程を一つ一つ押さえるための分子修飾上の工夫も多大になる。色々な意味で一昔前は「無謀」とされ た試みではあるが,ここ10年ほどの合成実績により「無謀」から「困難」くらいまでには進展した模様である。現在のボトルネッ クは,この種の巨大分子の取り扱いや精製の技術・設備を持った計測研究者が不足していることである。過去に無い分子群 なので,指導者層も素人。ウチから供与した大型分子群で経験をつんだ学生さんも卒業してしまうと振り出しにもどる。ため 息ひとつ。まだまだ長丁場になりそうなので,とりあえず減量して体力をつけることにしよう。